2011年10月17日 23:56

はい、滑り込みセーフ。
今日の更新(笑)
いつもお読みいただきありがとうございます。
最近、ちょっと拍手が増えたみたいで嬉しい^^
同じ人がきっと読んでいてくれているのかな?
ありがとうございます。
いつもコメントをくださるVooodkaさん、お返事しなくてごめんなさい^^;
みなさん、いつもありがとうございます。
この場所、そして別冊108は私に本当に元気をくれる場所です。
さて、お話は……ドンヘとヒョクチェのふたりぐらしのお話。
34. our home & diary
俺は車に乗ると眠ってしまったようだ。目を開けるともう到着し、出て行ったらしくヒョクチェは車内にいなかった。あちこち見回すと、俺の目にはうっそうとした森しか見えなかった。とにかく山の中のようだが、こんなふうにじっとしていたら獣が現れて車に襲い掛かるくらいしんとした場所だった。
「う……なんだ、イ・ヒョクチェ。どこにいった」
大丈夫だ、大丈夫。なんとか自分に言い聞かせ、車から降りた俺は一歩踏み出すなりサクサクという落ち葉を踏む音がして、呪文にかけられたかのようにびっくりした胸をなで下ろさなければならなかった。
冬なのにどうして落ち葉? おのずと眉がひそめられるのをなんとかこらえ、もう一度踏み出したが。
「なに!」
突然俺の後ろに案じられる感触に、自分でも無意識に若い女の子みたいにキャっと声をあげてしまった。
「起きた?」
「……なんだ。びっくりするじゃないか!」
「ここからは車が入れないんだ。歩こう」
「俺は……今すごく疲れてるのに」
「負ぶってやるよ」
敢えて負ぶってくれといったわけではなかったのだが、負ぶるっていうからまあ……。俺は負ける不利をして体をまるめヒョクチェの背中にぶら下がった。よしっという声が聞こえると、俺は姿勢をまっすぐにとった。映画では普通恋人に抱かれるとき広くて暖かいという感じを受けるが、ヒョクチェの背中はあまり広くはなかった。本音しかないこいつに、俺が何の期待をする。だけどヒョクチェの背中は、どんな映画の主人公よりも暖かい気がした。
「あ、ええなあ」
「ええなあってなんだよ。いい、だろ。とにかく韓国語の破壊はお前からはじまるんだから」
「うるさいー!!」
「"うるさいー!」
「マネするなあ!」
「マネするなああー!」
「くそ、死ぬか!」
「くそ! 死なない〜!」
ヒョクチェの最後の言葉に俺はくすっと笑った。幼稚で死にそうだ、本当に。ヒョクチェは俺の笑い声が嬉しいのか、それとも俺をもっと楽しませようとしているのか、もっと笑え。と言い、俺はまた笑いながらヒョクチェの頭にこつんとげんこつで殴った。そして俺は暖かさをもう少し感じたくて、ヒョクチェの背中に自分の頬をつけて目を閉じた。落ち着く。産まれる前の子どもが母親の羊水の中にいるときの温度が一番落ち着くというが、そのときの記憶は思い出せないが、いや、当然思い出せるはずがないが、今俺は世界で一番大きな安らぎを感じていた。おそらくそのときよりもはるかに。
「到着!」
ヒョクチェは俺が降りられるようにひざを曲げた。俺はもしかして倒れるかと、注意深く降りて、目の前に広がる光景を見た。涙が出そうになるのを下唇をかんで何とかこらえた。ここで泣いてどうする……あ! 男のプライドが死ぬから。
「入ろう、何してる」
あまりにもかわいい、前にも来たときよりもやわらかく美しくなった。もう4年前になるが、「美少年 合宿大騒動」を撮影していたあのペンションだった。あのとき俺がたぶん「将来結婚したらきっとこんなところで暮らしたい」と言ったんだろうが……その言葉を忘れずにここに俺を連れてきてくれたヒョクチェがとてもありがたかった。
ペンションの中はあのときと変わったところはなく、そのものだった。誰かに借りられ続けていたのか、それとも管理人の管理が行き届いていたのか、隅々を見回してもほこりひとつなくきれいだ。
「感動、イッパイもらったよ」
「イッパイは日本語だろう。おまえはさっき韓国破壊をしておいて……」
「とにかく!」
感動して泣くにはまだ早い。
ヒョクチェに内緒で腕の項で涙を拭いたのをいつ見られたのか、彼は俺にそう言った。ヒョクチェは自分の両手で俺の目を覆った。そしてどこに行くのかわからないが、俺をどこかに引いていった。
見えない、この手を離せ! ぶつくさいいながら、俺の口元から微笑みは離れようとしなかった。
「じゃーん」
ヒョクチェの手が離れると、俺の目の前に一番先に見えたものは青い壁紙の部屋だった。その真ん中には色を合わせたのか、空色のシーツに包まれているベッドが見えた。
「俺たちにとってはいつでも朝だ。空がこんなにも青いのに、夜が来る暇がどこにある」
壁紙もシーツも、みんな俺の死を否定するようで心が痛んだ。いつも朝だと言うことは俺の人生に終わりがないと言うことを彼だけのやり方で少しそれとなく言っているということだ。
ヒョクチェが敢えて口にしなくても俺にはわかった。俺のほうを笑って見つめるヒョクチェの首を引き寄せ抱きしめた。
後頭部に感じられる暖かさに安心した。ヒョクチェはそんなふうにしばらく俺を抱きしめてくれながら、もう一度俺を放した。どうしたのかという目でヒョクチェを見ると、ヒョクチェは何も言わずに片隅にある作り付けのクローゼットを指差した。「開けてみて」
ヒョクチェの言葉に俺は少しじらすようにしながらとりあえず左側の扉をぱっと開けた。そこにはホテルにあるべき、いやChina Juniorが出発したのと同時にもう宿所にあるべき俺の服が全部ハンガーにきれいに整頓されていた。そして俺の下着と靴下がきちんきちんと全て畳まれていた。
「……ヒョクチェ……いつこれを全部……」
「隣も開けてみて」
俺が驚いて口さえ閉じることができないままヒョクチェに聞くと、今度は二番目の引き出しを指差した。
今度は間もおかずにすぐにダンスを開けた。予想していたが、そこにはヒョクチェの服がハンガーにかかっていた。三番目のドアには色とりどりの服があった。それらはみんな二つずつ、小さなサイズとオオキナサイズがふたりある、俺たちのカップルTシャツだった。四番目の扉には俺たちのステージ衣装が全部かかっていて、最後の扉には服ではなく一目見ても空にいるくものようにふわふわしていそうな、色は全て空色だが、デザインはみんな違う枕と布団があった。
「いつ運んだの……?」
「おまえが眠っているときに暇あるごとに。そして実は、ヨンジュンヒョンにも頼んで……これからここで暮らすから。この家、ようやく買ったんだ。もともと住んでいたおじいさんが占いと言ったんだ。俺たちの放送があった後、たくさんの人が予約したらしい。なんとか頼み込んで買ったんだ」
「ヒョクチェ……」
「掃除するために腕がもげるかとおもった……ふう。ここは……ヨンジュンヒョン以外には誰も知っている人はいない。メンバーたちにもまだ話してない……だから俺たち、ここで愛し合えばいい……」
「……」
「ところでカップルTシャツは……さっき俺たちが狎鴎亭にいるとき、ヨンジュンヒョンにただとにかく電話で頼んで何個か買っておいてくれって……俺も実は初めて見るんだ。さっき見て、おまえがカップルTシャツを着ているのが嬉しそうだったから、俺たち、毎日カップルTシャツばかり着ていよう」
「イ・ヒョクチェ……おまえほんとに……」
「ステージ衣装は、ただ……おまえが恋しがる気がして……さあ! 布団も何種類も買っておいたから、新婚の気分で頻繁に変えよう」
「……」
「これからは些細なことまで全部お前にあわせてやるから……だからほしいものがあったら全部言え。全部やるから……それから、何かしたいことはないか?」
その質問に答える代わりに、いつの間にか俺の目には涙が浮かんでいて、ヒョクチェは俺の手をぎゅっと掴み引き寄せて、胸に抱きしめた。そして俺の耳元で小さく囁くように言った。
「ここは俺たちふたりだけしかいないから、もうやりたいことを全部やって暮らそう。朝に起きたらおまえが作ってくれるご飯を食べて……一日中お前とおしゃべりして、一緒におふろも入って……ああ、やることがたくさんあるな……死ぬまで屋っても足りない」
「……三日間……旅行って言ったじゃないか」
「三日後に出るよ。そしてメンバーたちに会って……俺たちの結婚式を上げて、また戻ってくるんだ。ここで暮らすんだ……一生お前と……この新婚の家で」
「……」
「世界で一番幸せな人間にしてあげるから……映画やドラマよりももっと幸せにしてあげるから、俺と結婚して後悔しないようにするから……自分のことよりもお前を愛するから……」
「うぅぅ……ばか……」
今だって俺は世界で一番幸せな人間じゃないか。映画やドラマよりももっと俺は幸せに暮らしているじゃないか。いつもおまえはおまえよりも俺を愛してくれるじゃないか……。
俺はおまえにこんなに愛されて、誰よりも幸せだ……。
*
「泡が飛ぶじゃないか! うわっ……マジで死ね、イ・ヒョクチェ!!」
「飛ばそうと思って振り撒いたんだよ。適当に撒いたと思う?」
「おまえも受けてみろ!!!」
この家で何よりも気に入ったのは広い浴槽。浴槽がかなり広くてこうして大の20台の男がふたり入ってもそれほど狭くは感じない。俺たちはよくそうにいっぱい泡を入れて、どちらともなく浴槽に入り、互いに泡をふうっと吹きかけた。初めにヒョクチェが俺に泡を吹き、俺もヒョクチェに泡を吹いて目に入ったのか片目をしかめるヒョクチェの顔に、俺は楽しそうに笑った。
「マジで俺が何がかわいいって通帳をごっそり使いこんでおまえにこの家をプレゼントしたのか……俺は今、完全に後悔中……」
「べーーー」
「そこでじっとしてろよ」
ヒョクチェの言葉に俺はくすくす笑いながら、笑うのをやめて、本当にじっと座っていた。まもなく水の中から何かがもぞもぞ這いあがってくると、続いてあがってきたヒョクチェの両手が俺の顔を包んだ。
「ああ、くそ汚いぞ!」
「よーちよち」
その足を両側に開きながらようやく言う言葉がよーちよちだなんて。
俺はふとヒョクチェと見た「君は僕の運命」という映画を思い出し、もしかして……もしかしてと思っていたとき、その後に聞こえるヒョクチェの言葉に本当に躊躇いなくハイキックをおみまいした。
「俺もこうしてるんだから、ドヨンお姉さまのようにセクシーにじゃないか?」
もうどれだけ時間が流れたのか、俺の指がふやけた頃、俺はもう出ようと浴槽を出たが、ヒョクチェは俺を浴槽の上に座らせた。そしてタオルで、泡のついた首から俺の体を順番に拭いていった。
「う……くすぐったい」
「じっとしてろ」
首から始まり、タオルは徐々に俺のからだの隅々を拭いていった。初めに俺はなぜかわからないビリビリした感じと恍惚感に浸っていたが、ヒョクチェが拭き続れば拭き続けるほど、悲しみだけが大きくなっていった。
「こんなふうに……拭いていれば、おまえの体にあるがん細胞もなくなってしまうさ」
「……」
「これから……毎日毎日、俺が洗ってあげるよ」
ヒョクチェの言葉に、結局どっと泣き声が張り裂けた。どうして今更おまえと風呂に入ったのか、恣意さ名ことから順番にするには、俺たちの時間があまりにも足りなすぎる。毎日洗ってあげると言うヒョクチェノ言葉は感動的だったが、それが果たして何度できるだろうかという疑問だけが俺の頭の中にあふれていた。未練なんて持たないようにしようと誓ったのに……こんなふうにおまえの手に触れられる日が、いくらも残っていないのだということがまた無意味な未練を作ってしまった。
俺も一生……おまえと一緒に生きたいけど。こんなふうに夜になったら、お前と一緒に泡風呂に入って、眠る前に少しずつおまえと愛を分け合い、おまえの言うとおり、俺が作る朝ごはんを互いに顔を見ながら食べて……。
*
夜中をかなり越えた時間のせいで、俺たちはお風呂から出るなり寝床に入った。今、俺が寝ているこの場所は海外ロケに出たときの5つ星のホテルで泊まっているときよりかなり安らかで穏やかだった。もちろん、俺の隣にイ・ヒョクチェがいて、そんなことだけなのに。ヒョクチェはすごく疲れていたらしく、いつの間にか寝てしまった。ぐっすり、あまりにも安らかに寝ているヒョクチェの呼吸音を聞き、彼が寝ているのをもう一度確認して、俺はベッドから起き上がった。部屋から出てリビングに引くと、部屋の暖かい温度とは違う、冷ややかな空気が全身を包んだ。俺はなんとなく寒くなって両腕をわきの下に いれて、あちこち見回した。二人が住むには少し大きいと思うペンションだったが、それでもヒョクチェと暮らすというその確かさが物足りなさを満たしてくれた。リビングにTVがないからか、雰囲気は余計にわびしくみえた。俺はあちこち見回して、ソファの上に置かれたあるノートに目をやった。もう少しそばで見てみると、ノートではなくそれはピンク色の日記だった。
俺のではないから、イ・ヒョクチェのものだ。俺はヒョクチェのものだと決めつけて、気になってすぐに日記を広げた。
一枚目は線がない無地で、そこには俺たちがステージの上で撮った写真が貼られていた。もう二度とあがることはないだろう、あのステージ。涙が出そうになるのをこらえて、次のページを開いた。そこには日記が長めにかかれていたが、よく読んでみるとそれは日記ではなく、俺宛の手紙だった。それを読んでいく俺の目はさっき涙を我慢したのが嘘みたいにたくさんの涙が両頬を伝って流れ落ちた。俺の涙の多くて、日記に書かれたペンのインクが滲み、俺は日記をすばやく覆った。
そしてどんどん大きくなる泣き声にヒョクチェが起きるんじゃないかと、ペンションのドアを開けて庭に出た。庭に出た俺は、ヒョクチェに泣き声が聞こえないという安心感のせいで、よけいにわんわん泣いてしまった。俺の気持ちは既に砕けるままに砕け、ばらばらになってしまったのに、空の上のあの月は無頓着にも丸い。
俺はそんな月を見ながら、自分の手を合わせて目を閉じてひざまずいた。
「こんなふうに互いが苦しまなければならないのなら……」
俺のせいでヒョクチェが苦しまなければならないのなら。
「いっそ、私を早く連れて行ってください……」
もう少し早く俺のことを整理できるように……俺を忘れられるように……。
「私がここから去ることになったら、ヒョクチェはこの大きな家にひとりで残されるから……死は他の場所で迎えるように……お願い致します……」
ここで俺を追うなんて馬鹿なまねでもしたら……誰も発見できないから。
「そして……ヒョクチェは私なしでも生きられるように……助けてください……ごはんを……食べられるように……サッカーをできるように……音楽ももう一度……できるように……」
私が望むことはひとつだけだから……ヒョクチェの幸せを願うその気持ちひとつだから。
「お願い致します……」
結局、うわあんと涙がまた出てしまった。俺の祈りを聞いてくれるだろうか。神様はあの上から俺の祈りを聞いてくださるだろうか。それでもあの子が週末には欠かさず教会に行こうと努力して……毎日祈っているのに。そんなイ・ヒョクチェノのための俺の祈りなんだから……聞いてください。俺は腕で涙を拭いて、もう一度ペンションに入った。そして最大限、音が出ないようにドアの鍵をかけて、もう一度ヒョクチェが寝ているベッドの中に戻った。寝ているヒョクチェの腕を伸ばして、自分で腕枕をして、ヒョクチェの胸に抱かれたけれど、眠っていると思っていたヒョクチェんお声が俺の耳に聞こえてきた。
「どこに行ってきた……俺のそばを離れたらだめだってわかってるだろ……」
もうひとつ、お願い致します……。
私がいなくなったら彼に残されている……私の記憶を全て消してください……。
<グローバル時代にすばやく対応していくヒョクチェの日記の一番目。今はかなり遅い夜中……。夜は黒いクレヨンで色を塗ったかのように完全に真っ黒で……今日は格別に星は明るい……。おまえは今まさに眠る。俺は怖い。おまえがしきりに痛みを訴えて倒れるたびに、永遠に目を開かないんじゃないかって怖い。それでもおまえの前ではいつも大丈夫な不利、なんでもないふり、演技をして。ごめん……おまえがつらいのに、俺ができることはただ隣で守ってやることだけで。ありがとう。よく耐えてくれて。本当にありがとう。今日は会社に行くけど……うん……ただ再契約はしない。おまえにこれを言ったらまた怒るだろう? だけど歌手活動をしたらおまえを見てやれないじゃないか……。もちろんほかの理由もあるけど、これはおまえが知ったら喜ばないだろうから、今からこんなふうに日記を……いや、手紙か? とにかくこっくりこっくり書いているよ。そして俺たちが一緒に暮らして1周年になる日、おまえにこれを贈るんだ。そのときまで俺の隣にいてくれると信じている。今日はおまえが住みたいというペンションに行って、おじいさんを説得した。最後まで売らないと言ったのを本当にしつこくねだって買ったんだ……。ドンヘ、寝ているおまえの姿はどうしてそんなにかわいいんだ。ぐっすり赤ん坊のようにとてもかわいくて、本当に世界で一番かわいくて。ところであのさ、おまえはそれでも眠っているときより起きているときのほうがかわいい。あまり長く寝るなよ。一日に8時間以上寝たら健康にもよくないらしい。だからひとことで言うと、俺のそばからあまり早くいなくなるなってことだ。俺は他のひとたちみたいにかっこいい……旦那さんになるよ。ちょっとおかしいな。旦那だなんて。とにかく他の人たちのように素敵な旦那になれなくても……いつもおまえを信じて、おまえを泣かせない旦那になるから。おまえがキムチチゲを作ってテンジャンチケだって冗談を言ったら、俺はテンヂャンの味がするっておいしくチゲを食べる。おまえが赤い夕焼けを見ながら緑色だって冗談を言ったら、俺は緑色の夕日がきれいだねって答えるよ。ドンヘ……痛いときはね、気を使わないで思い切り痛いって叫んで。俺はお前の隣で、そんなおまえの姿もみんな受け入れる準備ができているから。頼むから、本当にひとりで苦しむのだけはやめてくれ。ああ……もう朝になろうとしている。それじゃあ今日はここで終わりだ。明日会おう、ドンヘ、愛してる>
俺は車に乗ると眠ってしまったようだ。目を開けるともう到着し、出て行ったらしくヒョクチェは車内にいなかった。あちこち見回すと、俺の目にはうっそうとした森しか見えなかった。とにかく山の中のようだが、こんなふうにじっとしていたら獣が現れて車に襲い掛かるくらいしんとした場所だった。
「う……なんだ、イ・ヒョクチェ。どこにいった」
大丈夫だ、大丈夫。なんとか自分に言い聞かせ、車から降りた俺は一歩踏み出すなりサクサクという落ち葉を踏む音がして、呪文にかけられたかのようにびっくりした胸をなで下ろさなければならなかった。
冬なのにどうして落ち葉? おのずと眉がひそめられるのをなんとかこらえ、もう一度踏み出したが。
「なに!」
突然俺の後ろに案じられる感触に、自分でも無意識に若い女の子みたいにキャっと声をあげてしまった。
「起きた?」
「……なんだ。びっくりするじゃないか!」
「ここからは車が入れないんだ。歩こう」
「俺は……今すごく疲れてるのに」
「負ぶってやるよ」
敢えて負ぶってくれといったわけではなかったのだが、負ぶるっていうからまあ……。俺は負ける不利をして体をまるめヒョクチェの背中にぶら下がった。よしっという声が聞こえると、俺は姿勢をまっすぐにとった。映画では普通恋人に抱かれるとき広くて暖かいという感じを受けるが、ヒョクチェの背中はあまり広くはなかった。本音しかないこいつに、俺が何の期待をする。だけどヒョクチェの背中は、どんな映画の主人公よりも暖かい気がした。
「あ、ええなあ」
「ええなあってなんだよ。いい、だろ。とにかく韓国語の破壊はお前からはじまるんだから」
「うるさいー!!」
「"うるさいー!」
「マネするなあ!」
「マネするなああー!」
「くそ、死ぬか!」
「くそ! 死なない〜!」
ヒョクチェの最後の言葉に俺はくすっと笑った。幼稚で死にそうだ、本当に。ヒョクチェは俺の笑い声が嬉しいのか、それとも俺をもっと楽しませようとしているのか、もっと笑え。と言い、俺はまた笑いながらヒョクチェの頭にこつんとげんこつで殴った。そして俺は暖かさをもう少し感じたくて、ヒョクチェの背中に自分の頬をつけて目を閉じた。落ち着く。産まれる前の子どもが母親の羊水の中にいるときの温度が一番落ち着くというが、そのときの記憶は思い出せないが、いや、当然思い出せるはずがないが、今俺は世界で一番大きな安らぎを感じていた。おそらくそのときよりもはるかに。
「到着!」
ヒョクチェは俺が降りられるようにひざを曲げた。俺はもしかして倒れるかと、注意深く降りて、目の前に広がる光景を見た。涙が出そうになるのを下唇をかんで何とかこらえた。ここで泣いてどうする……あ! 男のプライドが死ぬから。
「入ろう、何してる」
あまりにもかわいい、前にも来たときよりもやわらかく美しくなった。もう4年前になるが、「美少年 合宿大騒動」を撮影していたあのペンションだった。あのとき俺がたぶん「将来結婚したらきっとこんなところで暮らしたい」と言ったんだろうが……その言葉を忘れずにここに俺を連れてきてくれたヒョクチェがとてもありがたかった。
ペンションの中はあのときと変わったところはなく、そのものだった。誰かに借りられ続けていたのか、それとも管理人の管理が行き届いていたのか、隅々を見回してもほこりひとつなくきれいだ。
「感動、イッパイもらったよ」
「イッパイは日本語だろう。おまえはさっき韓国破壊をしておいて……」
「とにかく!」
感動して泣くにはまだ早い。
ヒョクチェに内緒で腕の項で涙を拭いたのをいつ見られたのか、彼は俺にそう言った。ヒョクチェは自分の両手で俺の目を覆った。そしてどこに行くのかわからないが、俺をどこかに引いていった。
見えない、この手を離せ! ぶつくさいいながら、俺の口元から微笑みは離れようとしなかった。
「じゃーん」
ヒョクチェの手が離れると、俺の目の前に一番先に見えたものは青い壁紙の部屋だった。その真ん中には色を合わせたのか、空色のシーツに包まれているベッドが見えた。
「俺たちにとってはいつでも朝だ。空がこんなにも青いのに、夜が来る暇がどこにある」
壁紙もシーツも、みんな俺の死を否定するようで心が痛んだ。いつも朝だと言うことは俺の人生に終わりがないと言うことを彼だけのやり方で少しそれとなく言っているということだ。
ヒョクチェが敢えて口にしなくても俺にはわかった。俺のほうを笑って見つめるヒョクチェの首を引き寄せ抱きしめた。
後頭部に感じられる暖かさに安心した。ヒョクチェはそんなふうにしばらく俺を抱きしめてくれながら、もう一度俺を放した。どうしたのかという目でヒョクチェを見ると、ヒョクチェは何も言わずに片隅にある作り付けのクローゼットを指差した。「開けてみて」
ヒョクチェの言葉に俺は少しじらすようにしながらとりあえず左側の扉をぱっと開けた。そこにはホテルにあるべき、いやChina Juniorが出発したのと同時にもう宿所にあるべき俺の服が全部ハンガーにきれいに整頓されていた。そして俺の下着と靴下がきちんきちんと全て畳まれていた。
「……ヒョクチェ……いつこれを全部……」
「隣も開けてみて」
俺が驚いて口さえ閉じることができないままヒョクチェに聞くと、今度は二番目の引き出しを指差した。
今度は間もおかずにすぐにダンスを開けた。予想していたが、そこにはヒョクチェの服がハンガーにかかっていた。三番目のドアには色とりどりの服があった。それらはみんな二つずつ、小さなサイズとオオキナサイズがふたりある、俺たちのカップルTシャツだった。四番目の扉には俺たちのステージ衣装が全部かかっていて、最後の扉には服ではなく一目見ても空にいるくものようにふわふわしていそうな、色は全て空色だが、デザインはみんな違う枕と布団があった。
「いつ運んだの……?」
「おまえが眠っているときに暇あるごとに。そして実は、ヨンジュンヒョンにも頼んで……これからここで暮らすから。この家、ようやく買ったんだ。もともと住んでいたおじいさんが占いと言ったんだ。俺たちの放送があった後、たくさんの人が予約したらしい。なんとか頼み込んで買ったんだ」
「ヒョクチェ……」
「掃除するために腕がもげるかとおもった……ふう。ここは……ヨンジュンヒョン以外には誰も知っている人はいない。メンバーたちにもまだ話してない……だから俺たち、ここで愛し合えばいい……」
「……」
「ところでカップルTシャツは……さっき俺たちが狎鴎亭にいるとき、ヨンジュンヒョンにただとにかく電話で頼んで何個か買っておいてくれって……俺も実は初めて見るんだ。さっき見て、おまえがカップルTシャツを着ているのが嬉しそうだったから、俺たち、毎日カップルTシャツばかり着ていよう」
「イ・ヒョクチェ……おまえほんとに……」
「ステージ衣装は、ただ……おまえが恋しがる気がして……さあ! 布団も何種類も買っておいたから、新婚の気分で頻繁に変えよう」
「……」
「これからは些細なことまで全部お前にあわせてやるから……だからほしいものがあったら全部言え。全部やるから……それから、何かしたいことはないか?」
その質問に答える代わりに、いつの間にか俺の目には涙が浮かんでいて、ヒョクチェは俺の手をぎゅっと掴み引き寄せて、胸に抱きしめた。そして俺の耳元で小さく囁くように言った。
「ここは俺たちふたりだけしかいないから、もうやりたいことを全部やって暮らそう。朝に起きたらおまえが作ってくれるご飯を食べて……一日中お前とおしゃべりして、一緒におふろも入って……ああ、やることがたくさんあるな……死ぬまで屋っても足りない」
「……三日間……旅行って言ったじゃないか」
「三日後に出るよ。そしてメンバーたちに会って……俺たちの結婚式を上げて、また戻ってくるんだ。ここで暮らすんだ……一生お前と……この新婚の家で」
「……」
「世界で一番幸せな人間にしてあげるから……映画やドラマよりももっと幸せにしてあげるから、俺と結婚して後悔しないようにするから……自分のことよりもお前を愛するから……」
「うぅぅ……ばか……」
今だって俺は世界で一番幸せな人間じゃないか。映画やドラマよりももっと俺は幸せに暮らしているじゃないか。いつもおまえはおまえよりも俺を愛してくれるじゃないか……。
俺はおまえにこんなに愛されて、誰よりも幸せだ……。
*
「泡が飛ぶじゃないか! うわっ……マジで死ね、イ・ヒョクチェ!!」
「飛ばそうと思って振り撒いたんだよ。適当に撒いたと思う?」
「おまえも受けてみろ!!!」
この家で何よりも気に入ったのは広い浴槽。浴槽がかなり広くてこうして大の20台の男がふたり入ってもそれほど狭くは感じない。俺たちはよくそうにいっぱい泡を入れて、どちらともなく浴槽に入り、互いに泡をふうっと吹きかけた。初めにヒョクチェが俺に泡を吹き、俺もヒョクチェに泡を吹いて目に入ったのか片目をしかめるヒョクチェの顔に、俺は楽しそうに笑った。
「マジで俺が何がかわいいって通帳をごっそり使いこんでおまえにこの家をプレゼントしたのか……俺は今、完全に後悔中……」
「べーーー」
「そこでじっとしてろよ」
ヒョクチェの言葉に俺はくすくす笑いながら、笑うのをやめて、本当にじっと座っていた。まもなく水の中から何かがもぞもぞ這いあがってくると、続いてあがってきたヒョクチェの両手が俺の顔を包んだ。
「ああ、くそ汚いぞ!」
「よーちよち」
その足を両側に開きながらようやく言う言葉がよーちよちだなんて。
俺はふとヒョクチェと見た「君は僕の運命」という映画を思い出し、もしかして……もしかしてと思っていたとき、その後に聞こえるヒョクチェの言葉に本当に躊躇いなくハイキックをおみまいした。
「俺もこうしてるんだから、ドヨンお姉さまのようにセクシーにじゃないか?」
もうどれだけ時間が流れたのか、俺の指がふやけた頃、俺はもう出ようと浴槽を出たが、ヒョクチェは俺を浴槽の上に座らせた。そしてタオルで、泡のついた首から俺の体を順番に拭いていった。
「う……くすぐったい」
「じっとしてろ」
首から始まり、タオルは徐々に俺のからだの隅々を拭いていった。初めに俺はなぜかわからないビリビリした感じと恍惚感に浸っていたが、ヒョクチェが拭き続れば拭き続けるほど、悲しみだけが大きくなっていった。
「こんなふうに……拭いていれば、おまえの体にあるがん細胞もなくなってしまうさ」
「……」
「これから……毎日毎日、俺が洗ってあげるよ」
ヒョクチェの言葉に、結局どっと泣き声が張り裂けた。どうして今更おまえと風呂に入ったのか、恣意さ名ことから順番にするには、俺たちの時間があまりにも足りなすぎる。毎日洗ってあげると言うヒョクチェノ言葉は感動的だったが、それが果たして何度できるだろうかという疑問だけが俺の頭の中にあふれていた。未練なんて持たないようにしようと誓ったのに……こんなふうにおまえの手に触れられる日が、いくらも残っていないのだということがまた無意味な未練を作ってしまった。
俺も一生……おまえと一緒に生きたいけど。こんなふうに夜になったら、お前と一緒に泡風呂に入って、眠る前に少しずつおまえと愛を分け合い、おまえの言うとおり、俺が作る朝ごはんを互いに顔を見ながら食べて……。
*
夜中をかなり越えた時間のせいで、俺たちはお風呂から出るなり寝床に入った。今、俺が寝ているこの場所は海外ロケに出たときの5つ星のホテルで泊まっているときよりかなり安らかで穏やかだった。もちろん、俺の隣にイ・ヒョクチェがいて、そんなことだけなのに。ヒョクチェはすごく疲れていたらしく、いつの間にか寝てしまった。ぐっすり、あまりにも安らかに寝ているヒョクチェの呼吸音を聞き、彼が寝ているのをもう一度確認して、俺はベッドから起き上がった。部屋から出てリビングに引くと、部屋の暖かい温度とは違う、冷ややかな空気が全身を包んだ。俺はなんとなく寒くなって両腕をわきの下に いれて、あちこち見回した。二人が住むには少し大きいと思うペンションだったが、それでもヒョクチェと暮らすというその確かさが物足りなさを満たしてくれた。リビングにTVがないからか、雰囲気は余計にわびしくみえた。俺はあちこち見回して、ソファの上に置かれたあるノートに目をやった。もう少しそばで見てみると、ノートではなくそれはピンク色の日記だった。
俺のではないから、イ・ヒョクチェのものだ。俺はヒョクチェのものだと決めつけて、気になってすぐに日記を広げた。
一枚目は線がない無地で、そこには俺たちがステージの上で撮った写真が貼られていた。もう二度とあがることはないだろう、あのステージ。涙が出そうになるのをこらえて、次のページを開いた。そこには日記が長めにかかれていたが、よく読んでみるとそれは日記ではなく、俺宛の手紙だった。それを読んでいく俺の目はさっき涙を我慢したのが嘘みたいにたくさんの涙が両頬を伝って流れ落ちた。俺の涙の多くて、日記に書かれたペンのインクが滲み、俺は日記をすばやく覆った。
そしてどんどん大きくなる泣き声にヒョクチェが起きるんじゃないかと、ペンションのドアを開けて庭に出た。庭に出た俺は、ヒョクチェに泣き声が聞こえないという安心感のせいで、よけいにわんわん泣いてしまった。俺の気持ちは既に砕けるままに砕け、ばらばらになってしまったのに、空の上のあの月は無頓着にも丸い。
俺はそんな月を見ながら、自分の手を合わせて目を閉じてひざまずいた。
「こんなふうに互いが苦しまなければならないのなら……」
俺のせいでヒョクチェが苦しまなければならないのなら。
「いっそ、私を早く連れて行ってください……」
もう少し早く俺のことを整理できるように……俺を忘れられるように……。
「私がここから去ることになったら、ヒョクチェはこの大きな家にひとりで残されるから……死は他の場所で迎えるように……お願い致します……」
ここで俺を追うなんて馬鹿なまねでもしたら……誰も発見できないから。
「そして……ヒョクチェは私なしでも生きられるように……助けてください……ごはんを……食べられるように……サッカーをできるように……音楽ももう一度……できるように……」
私が望むことはひとつだけだから……ヒョクチェの幸せを願うその気持ちひとつだから。
「お願い致します……」
結局、うわあんと涙がまた出てしまった。俺の祈りを聞いてくれるだろうか。神様はあの上から俺の祈りを聞いてくださるだろうか。それでもあの子が週末には欠かさず教会に行こうと努力して……毎日祈っているのに。そんなイ・ヒョクチェノのための俺の祈りなんだから……聞いてください。俺は腕で涙を拭いて、もう一度ペンションに入った。そして最大限、音が出ないようにドアの鍵をかけて、もう一度ヒョクチェが寝ているベッドの中に戻った。寝ているヒョクチェの腕を伸ばして、自分で腕枕をして、ヒョクチェの胸に抱かれたけれど、眠っていると思っていたヒョクチェんお声が俺の耳に聞こえてきた。
「どこに行ってきた……俺のそばを離れたらだめだってわかってるだろ……」
もうひとつ、お願い致します……。
私がいなくなったら彼に残されている……私の記憶を全て消してください……。
<グローバル時代にすばやく対応していくヒョクチェの日記の一番目。今はかなり遅い夜中……。夜は黒いクレヨンで色を塗ったかのように完全に真っ黒で……今日は格別に星は明るい……。おまえは今まさに眠る。俺は怖い。おまえがしきりに痛みを訴えて倒れるたびに、永遠に目を開かないんじゃないかって怖い。それでもおまえの前ではいつも大丈夫な不利、なんでもないふり、演技をして。ごめん……おまえがつらいのに、俺ができることはただ隣で守ってやることだけで。ありがとう。よく耐えてくれて。本当にありがとう。今日は会社に行くけど……うん……ただ再契約はしない。おまえにこれを言ったらまた怒るだろう? だけど歌手活動をしたらおまえを見てやれないじゃないか……。もちろんほかの理由もあるけど、これはおまえが知ったら喜ばないだろうから、今からこんなふうに日記を……いや、手紙か? とにかくこっくりこっくり書いているよ。そして俺たちが一緒に暮らして1周年になる日、おまえにこれを贈るんだ。そのときまで俺の隣にいてくれると信じている。今日はおまえが住みたいというペンションに行って、おじいさんを説得した。最後まで売らないと言ったのを本当にしつこくねだって買ったんだ……。ドンヘ、寝ているおまえの姿はどうしてそんなにかわいいんだ。ぐっすり赤ん坊のようにとてもかわいくて、本当に世界で一番かわいくて。ところであのさ、おまえはそれでも眠っているときより起きているときのほうがかわいい。あまり長く寝るなよ。一日に8時間以上寝たら健康にもよくないらしい。だからひとことで言うと、俺のそばからあまり早くいなくなるなってことだ。俺は他のひとたちみたいにかっこいい……旦那さんになるよ。ちょっとおかしいな。旦那だなんて。とにかく他の人たちのように素敵な旦那になれなくても……いつもおまえを信じて、おまえを泣かせない旦那になるから。おまえがキムチチゲを作ってテンジャンチケだって冗談を言ったら、俺はテンヂャンの味がするっておいしくチゲを食べる。おまえが赤い夕焼けを見ながら緑色だって冗談を言ったら、俺は緑色の夕日がきれいだねって答えるよ。ドンヘ……痛いときはね、気を使わないで思い切り痛いって叫んで。俺はお前の隣で、そんなおまえの姿もみんな受け入れる準備ができているから。頼むから、本当にひとりで苦しむのだけはやめてくれ。ああ……もう朝になろうとしている。それじゃあ今日はここで終わりだ。明日会おう、ドンヘ、愛してる>
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コメント
Vooodka | URL | rVevf1aU
やっぱり泣く
わざわざお礼なんてとんでもありません。自分も曲がりなりに文を書いては更新してるんで、ついお気持ちがわかるような気になって「がんばって」と言いたくなっただけなので。お礼なんていいですから、ドンヘとヒョクチェをよろしくお願いします。
やっぱり泣いてしまいましたけどね。
( 2011年10月18日 00:18 [Edit] )
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